やくたたずの、子
ぼくは
ずっと
やくたたずの、子って
よばれている
いつごろ生まれたのか、もうわすれちゃったけど
ぼくが生まれたときには、たくさんたくさん、きょうだいがいたのは、おぼえてる
ぼくらはみんな、生まれてすぐに、ひとりひとり『なまえ』をもらったんだ
ぼくのなまえをつけてくれた人は、ピカピカした、かちかちのくらい色をしたふくをきた、えらそうなおじさん
ぼくのなまえは、ぼくより、うんとまえに生まれたきょうだいと、おんなじなまえ
だから
「きっとお前は、立派に役に立ってくれる」
ピカピカの、かたくてくらいふくをきたおじさんが、そういった
ぼくは、やくにたつの?
やくにたつって、いみは分からないけど、ぼくはなんだかすごく、うれしかった
✽
それから、ながいながいじかんがすぎた
じかんのいろは、さまざまで
まっかだったり、つめたかったり、あつかったり
でも、ぼくたちきょうだいが、やくにたつことはなかった
そんなある日、とつぜんぼくのきょうだいが、ごっそりとつれされられた
ぼくはひとりっきり
どうしたんだろう? どうしてだろう?
ふあんにおもって、いっしょうけんめい、ぼそぼそ聞こえてくるこえを、がんばってきいた
「条約だから仕方ない、解体せねば」
「しかし、全ての国がこの条約を守るとは限らない」
「そうだ、だから、秘密裏に残しておかねば、いつか、役に立つ」
ピカピカの、かたくてくらい色をしたふくをきたおじさんが、ぼくをみあげながらいった
ぼくは、やくにたつ
いみはやっぱり分からないけど、たくさんのきょうだいの中からぼくをえらんでくれて、ぼくは、すごくすごく、うれしかった
✽
そしてまた、ながいながいじかんがすぎた
まい日、ぼくのようすを見に来てくれる人は、しわしわでよれよれの、すそのながい、しろいふくをきたおじいさん
ぼくが生まれたときから、ずっといっしょにいるおじいさん
でも、さいしょから、おじいさんだったわけじゃない
ぼくが生まれたときは、おにいさんだったんだ
ピカピカした、かたいふくをきた人のかおは、ときどきかわるけど
ずっといっしょにいるおじいさんは、いつの間にか、おにいさんからおじいさんになってたんだ
おじいさんは、ぼくをみあげながら、いろんなおはなしをしてくれる
おじいさんがはなしてくれるのは、そとのせかいのこと
そら、うみ、かぜ、つち、くさ、き、はな、ひと
あんまりすてきで、ぼくはきくたびに、うっとりしちゃう
だからぼくは、ぼくがみたことのない、そとのせかいのことが、とってもすきになった
ああ、ぼく
はやく、やくにたちたい
そうしたら、どんなにしあわせだろう
「お前は役立たずのままの方が、幸せなんだよ、やくたたずの子のままでいておくれ」
どうして? どうして? どうして?
ピカピカの、かたくてくらい色のふくをきたおじさんたちは、ぼくをちゃんとなまえでよんでくれる
ぼくは、やくにたつ子だっていってくれるのに
どうして、おじいさんはぼくをよんでくれないの?
やくたたずの、子っていうの?
いやだなあ
いなくなっちゃったきょうだいの分も、ぼくはいっぱいいっぱい、やくにたちたいのに
✽
ある日
しろいふくをきたおじいさんが、まっさおなかおでとびこんできた
どうしたんだろう?
びっくりするぼくのまえで、おじいさんは、ぼくにつながっているいろいろなボタンを、ぱちぽちとたたきはじめた
「間に合ってくれ、間に合ってくれ、お前を使わせたくなんかないんだよ」
どうしたの、おじいさん? ぼく、なににつかわれるの?
でも、ぼくがつかわれるのはいいことなんじゃないの?
だって、ぼくはやくにたつんでしょう?
べそをかきながらボタンをおすおじいさんの手のうごきが、どんどんどんどん、はやくなる
ぱーん!
とつぜん、へんな音がして、おじいさんのからだが、ぴん! とはねた
おじいさんのきていたしろいふくが、まっかになって、おじいさんはゆかにたおれて
そして、うごかなくなった
こつこつこつこつ
足おとが、ぼくのめのまえで、とまる
「裏切り者め、科学者は世の中の為にたってこそ存在を許されるというのに」
ぴかぴかのふくをきたおじさんが、手になにかくろいちいさなものをもったまま、ぼくにちかづいてきた
おじさんは、手にもっていた、まだはいいろのほそいせんがのびている、くろいちいさなものをすてた
そして、おじいさんがしていたように、でもおすばしょはちがうけれど、ぼくにつながるボタンを、ポチポチカチカチ、おしはじめた
「さあ、やっとお前の出番がきたぞ、役に立ってもらうぞ」
✽
なまえをよばれるとどうじに
ぼくは、とつぜん、外にほうりだされた
たかくたかく、たかく
はじめてみたそらのいろ、ふかくてきれいなあおいろ
はじめてみたくものいろ、ふわふわのやわらかいしろ
はじめてみたうみのいろ、きらきらのまぶしいぐんじょう
はじめてみたもりのいろ、ぴかぴかのあったかいみどりいろ
はじめてみたつちのいろ、さらさらのすてきなちゃいろ
はじめてみた、たくさんの、たくさんの、たくさんの、ひと
ひと、ひと、ひと、ひと、ひと、ひと
ひとのかずだけ、かぞえられないたくさんのいろが、いっぱいに、たのしそうに、うれしそうに、ひろがってる
ああ
おじいさんがはなしてくれたとおりだ
せかいは
なんてすてきなんだろう
ぼくは、やっと、やくにたつんだ
でも、おじいさんは、やくたたずの、子でいればいい、っていっていたよ?
どっちが、ただしいんだろう?
ぼくのなまえは
【 りとる・ぼーい 】
ぼくのふしぎといっしょに
ぼくのからだは
はじけて
ひかりのたまになった
ああ、ぼくは
やくにたったのかなあ
やくたたずだったのかなあ
どっちなんだろう……